【私の本棚】まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのかを読んで

まぐれという本を読みました。題名はシンプルですが、ものすごく奥の深い読み物です。それこそ薄っぺらいものが最近多いパンローリング発行の本なんか、全然足元にも及びません。

著者のタレブはある金融機関で数理系トレーダーとして20年間勤め、更に大学教授として働いた経験を持つ超正統派のトレーダーです。本書は、ほとんどのトレーダーが自分の成功を実力だと勘違いしがちであるというタレブの主張に、納得のできる論証が多く盛り込まれ、成功しているトレーダーのほとんどは運だけで成功したのではないかと感じさせられてしまうくらい明らかな論理が通っているという本です。

私たちトレーダーにとっても、自分自身のトレーディングは果してどの程度のものなのか、と深く考えさせられる本です。面白い事例がふんだんに盛り込まれていますので飽きません。ちなみに、訳者も十分に金融知識があり、そして著者への洞察に時間を掛けていらっしゃいます。そこがパンローリングの訳本と違うところですね。パンローリングの文句ばっかりですみません。

何人もトレーダーがいれば、そのうちの誰かは儲かるやつが出てくるだろう、というのがまず始めにきます。このようなトレーダーが過去において予測が可能だと思い込むことや実際のパフォーマンスを元に更に将来も予測できると考えることで、最終的にリスクを多く取り破綻するというのが、運に踊ったトレーダーのお決まりのパターンだという話です。

過去において予測が可能だと思い込むというのはどういうことでしょうか?例えば戦後の成長、そしてバブル崩壊を考えてみましょう。戦後、日本の経済成長はすさまじく、バブル崩壊まではずっと株が上がっていたと言っていいでしょう。このような状況で株を持つというのは簡単に感じませんか?また、バブル崩壊があり株価は急落しました。流石に天井で売れると思っている人はいないでしょうが、それこそ日経平均2万円台で売るのは簡単だと感じませんか?ですが、当時にそのような合理的な行動を取るのは普通すごく難しいものです。

経済成長のさなかも株が下落して悲観的になることもありましたし、バブルの天井から押し目をつけて上昇するだろうと考えていた人も多かったのです。そのような過去の出来事に対してあたかも予測が簡単であると考えてしまうのは人間の悪い癖だということです。今も株がどっちに行くかわかりますか?10年後の人にとってはこの問題はすごくやさしいです。ちゃんと理由づけもできるはずです。

さて、その「過去において予測が可能だと思い込む」ことについて本書に面白い例がありました。お役人タイプのマネジャーが、トレーディング部門の収益をどう上げればよいか調査したそうです。その結果わかったことは、あまりに取引をしすぎていて手数料等の費用が嵩んでいるということと、大きな利益を得たトレードがほんの少しだったという事実でした。

そのお役人タイプが助言したことは、できる限り取引数を少なくし、利益が出るトレードをほんの少し増やせば収益は改善するということでした。しかし、そのプランに従うトレーダーはもちろんおらず、何故、トレーダー達は自分のプランに沿って仕事をしないのかわからなかったそうです。 言う通りにすれば間違いなく会社の収益は向上するのに・・・・

これは、いわゆる後知恵バイアス(※当サイト参考)といいます。もっと紹介したい事例がたくさんあるのですが、ものすごく長くなってしまいそうですのでこれくらいにしておきます。興味のある方は一読下さい。トレーダーの方は絶対に面白く感じると思いますよ。中身があるのに案外安いです。レビューも沢山ありますので参考にしてみて下さい。

この本で、不確実性科学の大学教授にして理数系トレーダーである著者の深い知識と鋭い洞察を読み取ることができます。

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